わかりやすい経営コラム ~経営者の皆さまへ~
 

 part18「シグナリング」

 経済学における完全競争市場では、その市場で競争している企業(完全競争企業)はみな同じ情報を保有しているという仮定があります。しかし、実際の経済では、「情報」も競争の優位性を築くための貴重な経営資源だといわれていることからもわかるように、どの会社も同じ情報を保有しているということは考えにくいですよね。情報にもギャップがあるのです。

 供給者側と需要者側のあいだにも情報のギャップが存在します(Wikipedia「情報の非対称性」)。ほしいモノがあった場合、「売り手にある情報が買い手にはない」ということが原因で買うのをやめたり、買ったあとで後悔したりということを経験したかたも多いのではないでしょうか。だれでも「高い商品を買ったけどすぐにこわれた!」というような事態はさけたいですよね。

 テレビCMや通販広告で紹介される商品には、よく「1年間無料保証!」や「30日間返品無料!」などのサービスが付与されていることがあります。これは、その商品のことをよく知っている売り手がその商品のことをよく知らない買い手に対して、「よい商品(品質)ですよ!」ということや「みなさんが満足できる商品(品質)ですよ!」ということのうらづけとなるような情報を提供することで、そのギャップを解消しようとしているのです。

このように、情報のギャップを解消するための情報伝達のことをシグナリングといいます(Wikipedia「シグナリング」)。

シグナリング理論を提唱した経済学者のスペンス(A. Michael Spence)さんは、「学歴はその人の能力のうらづけになるのだ!」といいました。

 もちろん、学歴が高ければ必ず仕事ができるというわけではありませんよね。また、とくに最近は、採用の条件として学歴を重視することは少なくなっているようです。

しかし、労働市場において、労働を供給する側(応募者)についてのくわしい情報は、労働を需要する側(採用者)にはありません。このような場合に、供給者側が「学歴」というシグナルを提供することで、これを需要者側が情報のギャップを解消する手段として活用するのです。

 採用においては、「学歴」にかぎらず、労働の需要者であるそれぞれの会社(事務所、お店など)が経験や能力などの基準を設定して評価しますが、労働の供給者は採用してもらうためにさまざまなシグナルを提供します。これは、情報のギャップをすこしでも解消するための情報伝達です。

 はじめてあったお友達となかよくなりたいと思った場合に、みなさんは自分についてどのような情報をつたえたいでしょうか。また、お友達はみなさんについてどのようなことが知りたいのでしょうか。お客さんに商品を買ってもらいたいと思った場合に、その商品についてどのような情報をつたえたいでしょうか。また、お客さんは商品についてどのようなことが知りたいのでしょうか。

 売り手が提供するシグナルは、買い手にとっての購買(需要)意欲を後押しすることがあります。最近のニュースでは、居酒屋の客引きで、あたかも大手居酒屋チェーンの系列店であるかのようなシグナルを暗に提供してお客さんを安心させたうえで、お店に強引に誘導するようなたちのわるい勧誘もあるというお話がありました(誘導したいお店の写真といっしょに、実際には関係のない大手居酒屋チェーン店の写真をたくさんならべてお客さんにみせながら料金などのシステムを説明するそうです)。

 経済活動において「情報の非対称性」が存在する場合に、供給者が需要者に対して必要なシグナルを提供することは有効です。需要者の立場としては、たくさんの情報のなかから必要な情報を選択する意識が大切であるのかもしれませんね。

提携中小企業診断士 岩田 岳 






連載中(月2回更新)



  お問い合わせ・ご相談はご気軽に
TEL 03‐4405‐4850
   (受付時間) 平日9:00~17:00
東京、千葉、埼玉、神奈川 その他、全国どこでも対応します。

Copyright(C) 2014 高橋会計事務所.All Rights Reserved.