わかりやすい経営コラム ~経営者の皆さまへ~
 

 part26「ゲーム③」

 「囚人のジレンマ」ゲームを例に、戦略型(ゲームに参加するプレーヤーの行動の順番など、時間的概念を考慮しません)非協力(プレーヤーがおたがいに協力することはありません)ゲームにおける「ナッシュ均衡」のお話をしてきました。

 では、経営における意思決定などで、この「ゲーム理論」がどのように応用できるのか、どのようなヒントを与えてくれるのかについて、同じようにかんたんなゲームで考えてみたいと思います。

 舞台は、2店の小さなパン屋さんがある町です。田中パン店と鈴木パン店です。そして、この町にパン屋さんはこの2店しかありません。つまり、自分や相手の行動が、おたがいの行動に大きな影響を与える状況を想定しています。

 田中パン店と鈴木パン店は、おたがいに、よりおいしいパンをつくって相手よりたくさん売ろうと努力しています。ある日、店主の田中さんと鈴木さんは同じような作戦を考えました。

 「思い切ってパンを値下げしてお客さんを奪えば、利益がたくさんでるかもしれないぞ!」

 田中さんと鈴木さんは、現在の価格と値下げした価格における営業利益を予想してみました。しかし、2人はさらに考えました。「あちらのパン屋さんも値下げをするかもしれないなあ…」

 そして、おたがいの経営状態やお客さんの数をよく知っている2人は、各プレーヤーが選択した行動の結果として得られるそれぞれの営業利益の予想を表にした利得表を作成したのです。この利得表の数値は、左側が田中パン店の営業利益、右側が鈴木パン店の営業利益です。



 「ナッシュ均衡」を求めましょう。まずは、鈴木さんが「現状維持」を選択した場合と鈴木さんが「値下げ」を選択した場合の田中さんの最適な行動を考えます。つぎに、田中さんが「現状維持」を選択した場合と田中さんが「値下げ」を選択した場合の鈴木さんの最適な行動を考えます。

 では、田中さんと鈴木さんの戦略を整理してみましょう。今回のゲームでは、相手がどちらの戦略であっても、田中さんと鈴木さんはともに利得が大きい「値下げ」を選択しています。この組み合わせ(田中さん「値下げ」、鈴木さん「値下げ」)が、このゲームの「ナッシュ均衡」です。



 このゲームも「囚人のジレンマ」ゲームです。2人がそろって「現状維持」を選択すれば、おたがいに「ナッシュ均衡」の利得よりも大きな利得を得ることができますよね。

 「ゲーム理論」には、いろいろなパターンがあります。もちろん、そのルールによっては、今回のゲームと異なる解が導かれる場合があります。

 田中パン店と鈴木パン店は、自分や相手の行動が、おたがいの行動に大きな影響を与える相互依存関係にあります。このような場合、経営における意思決定の根拠として、相手の行動はとても重要だと考えることができそうですね。

 ある会社が最新設備の導入について、正味現在価値(Net Present Value)や内部収益率(Internal Rate of Return)などの指標を基準に検討したとします。しかし、相互依存関係にある競合企業が同じ最新設備を導入するかどうかが自社商品の販売量を左右する場合、この数値の計算に大きな影響があるかもしれません。

 このように、複数の経済主体の行動が、それぞれの行動に大きな影響を与える市場もたくさんありそうですね。「ゲーム理論」では、行動の順番や協力関係の有無など、どのような状況(ゲームのルール)における意思決定であるのかを明確にすることが重要です。そして、競合企業の行動に対して自社がとるべき合理的な行動を検討するうえで、有効に活用することができそうです。

提携中小企業診断士 岩田 岳






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