経済学に「合成の誤謬(ごびゅう)」という言葉があります(Wikipedia「合成の誤謬」)。
「合成の誤謬」とは、「『ミクロ』で考えるとよい結果になることが、『マクロ』で考えると必ずしもよい結果になるとはかぎらない」ということを表すものです。
これは経済学の言葉です。ここでは、「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」を例に考えてみましょう。
「ミクロ経済学」ではその名のとおり、とても小さな単位の経済主体を分析します(Wikipedia「ミクロ経済学」)。その対象は「家計」や「企業」です。
一方で、「マクロ経済学」では、一転してその対象が大きくなります(Wikipedia「マクロ経済学」)。「国」全体の経済を分析するのです。みなさんのなかには、経済学者のケインズさん(John M. Keynes)の理論を中心に「マクロ経済学」の勉強をしたというかたも多いのではないでしょうか。
いま、みなさん個人が「貯蓄」を増やそうと考えました。経済学でいう「貯蓄」とは、「所得」から「消費」を差し引いたものです。これを「ミクロ」で考えると、物価の変動による影響などはありますが、努力の結果として、今後つかえるお金が増えるので、とてもよいことのように思われます。
たとえば、毎年500万円の「所得」のうち、400万円を「消費」していた人が、がんばって節約をすることで、その「消費」していた400万円のうちの200万円を「貯蓄」にする、というようなことです。
いつもなら「消費」しているはずの金額の50%が「貯蓄」となります。これで、一年まえと比較すると「貯蓄」は200万円増えますが、「消費」が200万円減ることになります。毎年500万円の「所得」はかわりません。つまり、「貯蓄」を増やすということは「消費」を減らすということでもあるのです。
さて、こんどは「マクロ」で考えてみましょう。「家計」や「企業」、「政府」までもが「貯蓄」を増やそうと考えました。
「貯蓄」とは、「所得」から「消費」を差し引いたものでした。なんとなくおわかりになるかと思います。「国」全体の「消費」が減ってしまいますよね。「国」全体の「消費」が減ってしまうと、景気がわるくなって、みなさんの「所得」も減ってしまいそうです。
もうすこし考えてみましょう。GDP(国内総生産)には「三面等価の原則」というものがあります(Wikipedia「三面等価の原則」)。これは、「生産」と「分配」、「支出」すべての面におけるGDP(国内総生産)が同じ値であるという原則です。つまり、「国」全体の「支出」が減ることで、「生産」や「分配」も減ってしまうのです。
みなさん個人が「貯蓄」を増やそうと考えても、「所得」が減るわけではありませんでした。ところが、「マクロ」では「国」全体の「支出」が減ることで、「生産」が減少し、「分配(所得)」も減ってしまうのです。かんたんに考えると、いままで「消費」していた50%を「貯蓄」するさきほどの例では、GDP(国内総生産)が半分になってしまいます。
このようなお話から、「合成の誤謬」は「倹約のパラドックス」という言葉でも表現されています。
part25~part27ではゲーム理論のお話をしました。ゲーム理論のお話は、今回の「ミクロ」と「マクロ」の視点から考えた「合成の誤謬」とはちょっと違う内容です。しかし、「個人の選択だけを考慮した場合に想定される結果」と「他者の選択による個人への影響を考慮した場合に想定される結果」が異なることは、どちらのお話で考えても「とても不思議なこと」ではなさそうですね。
提携中小企業診断士 岩田 岳
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