わかりやすい経営コラム ~経営者の皆さまへ~
 

 part27「ミクロとマクロ(合成の誤謬)」

 経済学に「合成の誤謬(ごびゅう)」という言葉があります(Wikipedia「合成の誤謬」)。

 「合成の誤謬」とは、「『ミクロ』で考えるとよい結果になることが、『マクロ』で考えると必ずしもよい結果になるとはかぎらない」ということを表すものです。

 これは経済学の言葉です。ここでは、「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」を例に考えてみましょう。

 「ミクロ経済学」ではその名のとおり、とても小さな単位の経済主体を分析します(Wikipedia「ミクロ経済学」)。その対象は「家計」や「企業」です。

 一方で、「マクロ経済学」では、一転してその対象が大きくなります(Wikipedia「マクロ経済学」)。「国」全体の経済を分析するのです。みなさんのなかには、経済学者のケインズさん(John M. Keynes)の理論を中心に「マクロ経済学」の勉強をしたというかたも多いのではないでしょうか。

 いま、みなさん個人が「貯蓄」を増やそうと考えました。経済学でいう「貯蓄」とは、「所得」から「消費」を差し引いたものです。これを「ミクロ」で考えると、物価の変動による影響などはありますが、努力の結果として、今後つかえるお金が増えるので、とてもよいことのように思われます。

たとえば、毎年500万円の「所得」のうち、400万円を「消費」していた人が、がんばって節約をすることで、その「消費」していた400万円のうちの200万円を「貯蓄」にする、というようなことです。

 いつもなら「消費」しているはずの金額の50%が「貯蓄」となります。これで、一年まえと比較すると「貯蓄」は200万円増えますが、「消費」が200万円減ることになります。毎年500万円の「所得」はかわりません。つまり、「貯蓄」を増やすということは「消費」を減らすということでもあるのです。

 さて、こんどは「マクロ」で考えてみましょう。「家計」や「企業」、「政府」までもが「貯蓄」を増やそうと考えました。

 「貯蓄」とは、「所得」から「消費」を差し引いたものでした。なんとなくおわかりになるかと思います。「国」全体の「消費」が減ってしまいますよね。「国」全体の「消費」が減ってしまうと、景気がわるくなって、みなさんの「所得」も減ってしまいそうです。

 もうすこし考えてみましょう。GDP(国内総生産)には「三面等価の原則」というものがあります(Wikipedia「三面等価の原則」)。これは、「生産」と「分配」、「支出」すべての面におけるGDP(国内総生産)が同じ値であるという原則です。つまり、「国」全体の「支出」が減ることで、「生産」や「分配」も減ってしまうのです。

 みなさん個人が「貯蓄」を増やそうと考えても、「所得」が減るわけではありませんでした。ところが、「マクロ」では「国」全体の「支出」が減ることで、「生産」が減少し、「分配(所得)」も減ってしまうのです。かんたんに考えると、いままで「消費」していた50%を「貯蓄」するさきほどの例では、GDP(国内総生産)が半分になってしまいます。

 このようなお話から、「合成の誤謬」は「倹約のパラドックス」という言葉でも表現されています。

 part25part27ではゲーム理論のお話をしました。ゲーム理論のお話は、今回の「ミクロ」と「マクロ」の視点から考えた「合成の誤謬」とはちょっと違う内容です。しかし、「個人の選択だけを考慮した場合に想定される結果」と「他者の選択による個人への影響を考慮した場合に想定される結果」が異なることは、どちらのお話で考えても「とても不思議なこと」ではなさそうですね。

提携中小企業診断士 岩田 岳







連載中(月2回更新)



  お問い合わせ・ご相談はご気軽に
TEL 03‐4405‐4850
   (受付時間) 平日9:00~17:00
東京、千葉、埼玉、神奈川 その他、全国どこでも対応します。

Copyright(C) 2014 高橋会計事務所.All Rights Reserved.