わかりやすい経営コラム ~経営者の皆さまへ~
 

 part29「スラック」

 「スラック(組織スラック)」とは、組織における「余剰資源」を指す言葉です。英語の「slack」には、「ゆるみ」や「たるみ」のほかに、「ゆとり」などの意味があるそうです。

 「余剰(資源)」という言葉からは、「スラック」とはなにかムダなものであるような気がしますね。みなさんの会社(事務所、お店など)では、どのようなものが「スラック」だと考えることができるでしょうか。

 経営資源は、よく「ヒト、モノ、カネ、情報、ノウハウ」などと表現されます。経営学者のバーニー(Jay B. Barney)さんは、経営資源を「財務資源」、「物的資源」、「人的資源」、「組織資源」の4つに分類しています。みなさんの会社(事務所、お店など)の「スラック」にはどのようなものがあるのか、考えてみましょう。

 「スラック」は組織の非効率であるため、このようなムダを削減することで、効率を向上させるべきだと考えられることも多いようです。さらに、「余剰資源」である「スラック」を活用することができれば、いままでよりもたくさんの商品をつくったり、みじかい時間で仕事を進めたりすることができそうですね。たしかに、「『スラック』を活用すること」は「多角化戦略」を採用する動機などとしても捉えられています。

 このように、「余剰(資源)」がたくさん存在する場合、組織にとっては「スラック」が非効率で不必要なものであるかもしれません。過剰な「スラック」の削減や、「スラック」を活用することによる効率の向上が必要な場面もありそうです。

 しかし、組織の「スラック」そのものが不必要なわけではありません。

 みなさんと同じ部署で働く先輩が、体調不良でしばらく会社をおやすみすることになりました。この先輩は、会社にとってとても重要な業務を担当しています。だれかがかわりにこの業務を進めないと、会社の売上が大幅に減少してしまうかもしれません。

 しかし、みなさんは担当するそれぞれの業務がとても忙しいために、先輩の業務までこなせる余裕はだれにもありませんでした。

 この例では、そもそも必要な経営資源が不足しているのかもしれませんが、これでは会社が成り立ちません。組織には、ある程度の「スラック」が必要なのです。

 製造業の研究開発部門に、担当する商品の事業ドメインとは関係がない、すきな分野の研究開発をすることができる時間を設けている会社があります。

 これは、意図的に設定された「スラック」です。この部門の先輩がしばらくおやすみしても対応できそうです。さらに、この「スラック」により、あらたな事業をスタートさせることができるかもしれません。

 「働きアリの法則」というものがあります(Wikipedia「働きアリの法則」)。アリさんの集団を観察すると、「とてもよく働くアリ」と「ふつうに働くアリ」、「いつもサボっているアリ」の比率は「262」となりますが、「とてもよく働くアリ」や「いつもサボっているアリ」だけであらたなアリさんの集団をつくっても、その比率にかわりはないというものです。

 これは、「とてもよく働くアリ」がつかれてしまった場合などに働くほかのアリさんたちが、集団をながく存続させるためには不可欠な存在であるためだと考えられています。

 ちょっと強引ではありますが、「ふつうに働くアリ」や「いつもサボっているアリ」は、集団の存続のために設定された「スラック」として考えることもできそうです。

 また、「スラック」は意図しなくても発生します。不必要な「スラック」もたくさんありそうです。しかし、業績が安定している会社などでは、過剰な「スラック」が生じていても、それを組織の問題として認識できないかもしれませんし、「スラック」を活用するインセンティブ(誘因)がないかもしれません。

 従業員が目的を理解せずに、なんとなくこなしている業務などは、どのような会社にでもありそうですよね。「手段の目的化」という言葉があります。「目的」を達成するための「手段」であるはずの業務をこなすこと自体が「目的」になってしまうと、本来の「目的」が見失われてしまいます。

 これでは、ムダな仕事も増えてしまいそうです。「いままでやっていたから」、「やるようにいわれたから」なんとなくやっている、というような業務については、組織でその目的を共有したり、業務内容を見直したりすることで、「スラック」を有効に活用することができるかもしれませんね。

提携中小企業診断士 岩田 岳







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