独占企業や寡占企業ではないかぎり、同じ市場にたくさんの競合が存在します。パン屋さんのお話のように、お客さんにとっての価値が同じであれば、たくさんの競合との価格競争に陥ってしまいます。
ここで、「経営戦略」を「他社と異なる方法で、他社と異なる価値をつくるための作戦」だと考えてみたいと思います。
では、「他社と異なる方法」や「他社と異なる価値」をつくることができない状態だと、どうなってしまうのでしょうか。もうすこし考えてみましょう。
経済学に、完全競争という仮定で市場の分析をする概念があります(Wikipedia「完全競争」)。かんたんに説明すると、この市場で競争している企業(完全競争企業)は、他社と同じモノ(差別化できません)を他社と同じ価格(市場価格でしか売れません)で販売しています。また、この市場への参入、この市場からの退出は自由です。
経済学では、できるだけかんたんに分析をするために、このように条件(仮定)を設定することがよくあります。
長期的にこの市場では、価格は利潤がゼロになる水準で均衡します。経済学における完全競争市場で勝負している企業は、長期的にみると利潤がゼロになるのです。
ちょっと、ほかの例でも考えてみましょう。いま、みなさんは会社の設立を考えているとします。なにをする会社がよいか迷っていると、ある業界に市場参入すればとても儲かりそうだということがわかりました。
商品を仕入れるためのお金がすこしだけあれば、すぐにはじめることができます。ほかの初期費用はタダです。特別な知識や能力も必要ありません。かんたんな仕入販売です。
ほかの会社のマネをして、「同じモノ」を「同じ方法」で「同じ価格」で売るのです。みなさんは、タダではじめることができるうえに、仕事もかんたんでとても儲かるこの市場に参入することを決めました。
思ったとおり、とても儲かりました。最初だけでしたが…。
なんといっても、タダではじめることができるうえに、仕事もかんたんでとても儲かる市場です。ウワサを聞いたほかのみなさんが、この市場に続々と参入してきました。
競合が増えるにつれて、業界内の競争が激しくなりました。市場での取引価格はだんだんと下落して利益を圧迫し、ついにはまったく儲からなくなってしまいました。
そして、儲けることができなくなったこの市場への参入はなくなりました。
いかがでしょうか。いろいろな条件を設定しているので、実際の経済に必ずしもあてはまるとはいえません。しかし、「他社と同じ方法」で「他社と同じ価値」を提供していると、やはり価格競争になってしまいそうですね。そうなると、利益は減少してしまいます。
一方で、独占市場(供給独占)ではその企業(独占企業)が提供する価値を、消費者はその企業からしか買うことができません。競合がいなければ、価格競争にはなりません。
提携中小企業診断士 岩田 岳
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